今になって分かる想い出に代わる君の面白さ

 最近ふと想い出に代わる君をプレイしたくなり、久々にプレイしてみたところ当時とは違った面白さを発見したので今回は想い出にかわる君 〜Memories Off〜のレビューです。

1 何故想い出に代わる君は人気が無いのか?

 想い出に代わる君はメモリーズオフシリーズの第3作目なのですが、シリーズの中では低い評価がされており、6まで出ている本シリーズの中で唯一ファンディスクが発売されていません。無論想い出に代わる君がFDや後日談等必要の無い完結した作品だった、と言う考え方もありますがむしろ後日談でもう少しフォローする必要がある作品だったと思えます。おそらく単純に人気が無かったのでしょう。

 では何故人気が無かったのか?その理由について3点ほど考えて見ます。

Ⅰ 主人公が幼すぎる
 最初に挙げられるのは主人公の幼さです。この欠点は逆に当時はそこまで気づかなかった欠点なのですが、今見ると主人公の行動が随分場当たり的で非常に子供っぽいです。例えば、ネットの掲示板でヒロインを中傷する相手に対して同じレベルでの荒らしを行ってみたり、二股掛けている状況で片方の彼女に合鍵を渡しているのに何も考えずにもう片方の彼女を家に上げてみたり。言動の端々に幼さが垣間見え、その一方でテンチョーや信等主人公の周りの男性が人生経験豊富な大人なのでいっそう主人公の幼さが際立ちます。

Ⅱ ヒロインが理想的なヒロイン像では無い
 次の欠点として攻略可能なヒロインがいわゆる都合のいいヒロイン像、と言うものでは無くプレイヤーをイライラさせる要素を含んでいるところです。やけにテンション高くてイライラしたり、やけに引っ込み思案でイライラしたり。地の文で主人公が不快感を露にすることもあり、それにつられてこちらもイライラしてきます。主人公の前の彼女がヒロインの友達だったことを知ると「アタシはあの子のお下がりなんてマッピラなんだよ!」と思ってみたり、主人公が前の彼女の残したものを隠し持っているのに気づいたら、部屋中にあった自分の持ち物を持ち帰って主人公と縁を切ろうとしたり、と一般的なギャルゲーの予定調和や都合のよさ、居心地の良さからはかけ離れています。

Ⅲ 真ヒロインルートに入るのがめんどくさい
 初プレイの時に何回カナタを攻略しようとしてもルートに入れず、仕方が無いので雑誌を買って攻略記事を見て見たことろ、「全ヒロインを攻略しないとカナタは攻略できない」と知ったときの衝撃は今でも忘れていません。この作品の一番の肝であるカナタルートに入るのに他のヒロインを全員攻略しなければならない、と言うのは確実にこの作品の評価を低くしている一因だと思います。前述のようにこちらをイラつかせるヒロインを全員攻略しないとメインルートに入れない。もちろん全員攻略し、各ヒロインの感情や過去等の情報を入れてからメインルートに入ったほうがよりいっそう物語を楽しめる、と言うのなら文句を言うつもりはありません。一応伏線らしきものもあったことはあったし、事前に他のヒロインを攻略しておくことでテンチョーの偉大さを把握する必要があったと言う点も分かりますが、正直ヒロイン一人攻略すればルート解放でも良かったんじゃないかなと。

2 それでもなお、想い出に代わる君は面白い
 と、ここまでいろいろ酷評してしまいましたが、それでも尚この作品は面白いのです。数々の欠点はありますが、それは全て新しいことへの挑戦でもあります。主人公の幼さはその幼さゆえにヒロインの苛立つ行動をプレイヤーと一緒に怒ってくれるし、そのヒロインの苛立つ部分はリアリティの追及や今までの美少女ゲームに無い作品を作ろうとした結果でしょう。それはこの作品の舞台が大学と言う点にも強く表れています。いわゆるギャルゲーやエロゲーの舞台は基本的に高校や高校的な設定の学園で、それゆえに描かれるのは高校生の恋愛です。しかしこの作品は高校という場から一歩進んだ大学生の恋愛が描かれており、それは他の作品とは違う何かを作りたい、という意思が現れのようにも思えます。
 
 では、高校生では描けない、大学生の恋愛とはなんなのか。それは数々のハードルを乗り越えて辿り着いた先のカナタルートにあり、この作品の真髄です。
 初代メモリーズオフでは、「幼馴染を自分のせいで永遠に失ってしまったトラウマをどう乗り越えるのか」、メモリーズオフ2ndでは「今の彼女と新しく好きになってしまった人との間で揺れ動く心」が描かれました。それに続く第三の問題提起として「死んでしまった男をどうやって乗り越えるか」。 その鍵となるキュービックカフェの存在とその終焉。それを描くには主人公が高校生では幼すぎ、かといってあまりに大人すぎる主人公では物語にならない。だからこそ幼い大学生としての主人公・加賀正午が生まれたんだと思います。

 

 正直この作品は決して万人受けする作品とは言えませんし、僕も当時は良く分からない作品、という感想しかもっていませんでしたが、最近再プレイしてふと、これはこれで面白い、ということに気づきました。
 以前プレイしようとして途中で挫折してしまった人。普通のギャルゲー、エロゲーに飽きてしまった人。是非一度この作品をプレイしてみてください。
メモリーズオフ”でしか描けない独創的な世界がそこにはあります。